ご挨拶

2013年の11月末に二作目の映画「ある精肉店のはなし」が公開して以来、無我夢中で走り続けてきました。気がつけば2014年も折り返し地点に立っています。小さな映画は、みなさまのお力添えによって、しっかりとした足取りで全国各地を廻らせていただいています。心より、心より御礼申し上げます。

この映画を作りはじめるときに、私の中でひとつ決めていたことがありました。それは、無事完成することができたら、この映画を自分自身の手でも上映していけるようになりたい、ということでした。一作目の「祝の島」が完成して以後、自分なりの映画との付き合い方を模索する中で、作品にしたら終わりではなく、その映画を観ていただく〝場〟を自らの手で積極的に作り出していきたい、と強く思うようになりました。

ということでこの度、会社を立ち上げました。株式会社やしほ映画社といいます。八入(やしほ)とは、染色で幾度も染液に浸し、色を濃く染め上げる技法で、手間がかかるそうです。私の名前が染色に由来するということ、そして「あなたのその〝しつこさ〟にぴったりだ」と師匠の本橋成一さんがつけてくださいました。

まずは「ある精肉店のはなし」の自主上映会の窓口をポレポレタイムス社から引き継ぎ、6月より始動しています。私が生まれ育った小金井の街に事務所をかまえました。東小金井駅より徒歩5分、築40年の古くて気持ちの良いアパートです。小金井在住で長年、映画の配給、プロデュースに携わってきた水由章さんがスタッフとして参加してくれるという幸運にも恵まれました。

私に映画づくりの道を開き、のろくてしつこい作品づくりに付き合い、この度の会社設立にも多大なご理解、ご協力をいただいた本橋さんはじめ、ポレポレタイムス社のみなさまへ心から感謝すると共に、やしほ映画社という器が、この社会に少しでも役立てるものとなるように全力を尽くしたいと思っています。これからも、末永くお付き合いいただければ幸いに存じます。どうぞよろしくお願い致します。

2014年6月吉日

株式会社やしほ映画社
代表取締役 纐纈あや

Profile

纐纈あや・Hanabusa Aya

映画監督 Film Director・やしほ映画社 代表取締役

東京生まれ。自由学園卒業。2001年ポレポレタイムス社に入社。本橋成一監督の『アレクセイと泉』(‘02年)『ナミイと唄えば』(’06年)の映画製作に携わる。’10年に上関原子力発電所に反対し続ける島民の暮らしを映し撮った映画『祝の島』を初監督。シチリア環境映像祭で最優秀賞受賞。二作目『ある精肉店のはなし』(2014年)は釜山国際映画祭、山形国際映画祭招待作品。文化庁映画賞文化記録映画大賞、ニッポンコネクション(フランクフルト)ニッポン・ヴィジョンズ観客賞、第5回辻静雄食文化賞。現在は、日本の移り行く時代の中で消えかかっている人々の営みを映像に撮り続けている。