〝肉〟に訴える映画
時間遅れの投稿になってしまったが、ユーロスーペースで上映していた塚本晋也監督の「野火」、最終日にようやく駆け込んだ。予告編を劇場で見たときから、観にこようと決めていたのに、なかなか足を向けられなかった。観たい、観なきゃと思うのだけれど、果たして映画を観たあとの自分がどんなふうになってしまうかが怖くて、時間がどんどん過ぎてしまった。
「野火」は、我が肉体にバッチーンとくる映画だった。87分間、ずっと全身に力が入ったままで、いっときも緊張をゆるめることができなかった。大きな爆音が鳴るたびに、思わず声を出してしまったし、身体がビクビク飛び跳ねた。
映画が終わって劇場が明るくなっても、しばしぼーっとしていたが、監督と一緒に新人俳優の森優作さんの、初々しく、まっすぐで透き通った挨拶を聞いたとき に、ようやく悪夢から覚めたような気がした。ああ、あれが映画で本当によかった…。今、目の前にキラキラした若者の姿を見ることができて本当によかった…。そして、監督に若い人たちが質問している光景に、まだこうした対話が普通にできるんだと思ったら、ほっとして全身が緩んだ。
でも、舞台挨拶が終わったあとも、何かを吐き出してしまいそうで、トイレに駆け込んだ。トイレの中で、しばらく泣いた。今まで流したどの涙とも違う気がし た。感情からくる涙とは違った。私の肉体がただただ、泣き続けていた。蛍光灯に照らされた真っ白なトイレの空間、その明るさが嬉しかった。
帰り道、ひとつの映画を思い出した。「ハーツ・アンド・マインズ〜ベトナム戦争の真実〜」。ベトナム戦争に関わる様々な証言や取材映像、ニュースフィルム などをつなぎ合わせ、ベトナム戦争の実像に迫り、アカデミー賞を授賞したドキュメンタリー映画史上最高傑作の1本と言われている作品だ。なぜ思い出したか といえば、ドキュメンタリーなのに、まるで人形を相手にするように、簡単に兵士や農民を射殺し、まるで人形のように放り投げられた死体がうずたかく積ま れ、まるで人形のように、その死体を蹴飛ばす兵士の姿が映し出されていた。現実であるはずなのに、それはまるでこの現実とは遠くかけ離れた世界、作りもの の世界に思えるその映像に、背中がゾーッとして凍りつくようだった。それを思い出したのだ。
でも、塚本監督の野火は、フィクションなのに、自分の肉体が、まるで戦場に放り込まれたかのように、全身でその恐怖を感じた。鼓動が早くなり、体温が上がったり、下がったり、声が出たり、身体が跳ねたり。直に〝肉〟に訴えてくる映像だった。自分に降りかかってくる逃れられない世界だった。辛いけど、でもわたしは、ずっとこういうものを観たかったんだ、と心から思った。映画といういっときの擬似ではあるけれども、でも、自分の肉体に実感として残る戦争の片鱗。わたしの身体は、確かにあの時間、地獄を体験した。
わたしも、理性というよりも、感情というよりも、肉に、この肉体に訴える映画を作りたい。肉で感じる映画を作りたい。なぜなら、今この現実とわたしを結び つけてくれるものが、この肉体に他ならないからだ。いのちを大切にする、とはよく言うけれど、忘れてはいけない。わたしの肉体、あなたの肉体を大切にする、ということを。この肉体で感じる、感じ合うということを。
にく、にく、書きながら、あらためてわたしのテーマは、肉なんだな、と思ったら、あっ!だから屠場であり、精肉店のはなしだったのか、と今更ながらに思ったりしている。そうか、そうか。自覚するのが遅すぎだ…。
今年もいい肉の日(11月29日)がやってくる。11月28日から限定1週間で、ポレポレ東中野で上映することが決まりました!29日(日)は、映画館前で北出の肉で焼肉を売ります!ぜひみなさま、自らの〝肉〟を感じに、また映画を観にきて下さいませ。
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「ある精肉店のはなし」公開2周年アンコール上映 at ポレポレ東中野!
☆11/28(土)~12/4(金)14:40 ~ 1週間1回上映
★11/29(日)上映後には纐纈あや監督舞台挨拶あり。
上映前14時頃から北出精肉店の焼肉を限定50食 販売します!
★12/2(水)は日本語字幕版上映
☆当日料金:1300円均一(高校生以下は500円)
☆ポレポレ東中野 TEL : 03-3371-0088 www.mmjp.or.jp/pole2/