3月19日「アレクセイと泉」(武蔵野) 上映会に寄せて
私にとって、映画制作の扉は、映画『アレクセイと泉』(本橋成一監督作)によって開かれました。
今から21年前、本橋さんの事務所で働くことが決まり、東中野のポレポレ坐ビル7Fを訪ねた時は、ロケも終わり、最後のアレクセイのナレーション録りのための渡航準備、真っ最中でした。
そこから映画が完成するまで、右も左も分からないまま製作デスクのサポートをしました。坂本龍一さんが音楽を担当してくれることになった!東京都写真美術館で写真展と映画上映を同時開催することになった!ベルリン国際映画祭の招待作品となった!と次から次へとパズルがはまっていき、その度に流れは加速し、目が回るような日々でした。急遽行けなくなった先輩スタッフの代わりに、映画祭に同行させていただくことになり、入社数ヶ月でこんな経験をさせていただいていいのだろうかと、寒空のベルリンの街を歩きながら、ほっぺたをつねりたくなるような気持ちでした。
劇場でのロングラン後は、デスクの後任として、自主上映会の窓口となり、全国の上映主催者と、毎日電話で話しっぱなし、という日が続きました。上映素材は35ミリか16ミリフィルム。まだまだメールのやりとりより、電話かFAXという時代でした。
映画の舞台はベラルーシ共和国南東部に位置するブジシチェ村。1986年にチェルノブイリ原子力発電所が爆発事故を起こし、この村にも政府から移住勧告が出ました。600人いた村人のほとんどが去る中で、とどまり続ける55人の年寄りと一人の青年アレクセイ。残る理由を尋ねると、ある老人はこう言います。ここには100年の泉があるから、と。映画は、この村人たちの暮らしぶりを、淡々と静かに描き出します。
あるフォトジャーナリストは、この映画も、前作の「ナージャの村」も、危険な映画だ。美しすぎる。放射能汚染された村を美化して間違った認識を与えかねない、と批判しました。指摘の通り、映画では、原子力発電所の事故のことも、汚染の危険性やそもそも放射能とはどういうものなのかということも、客観的な説明はありません。4月26日の事故当日のことや村の暮らしについて、アレクセイのひとり語りで物語は進みます。
私はこの映画を観るたびに心を掴まれます。危険なことは承知の上で、それでもなお、ふるさとにとどまり続ける村人たちの姿に、人は何によって生かされているのか?という根源的な問いへの応答をそこに見るのです。そして、ブジシチェ村の光景や、そこで暮らす村人たちの姿が美しければ美しいほどに、目には見えない放射能の不気味さが、胸に重く重くのしかかり、悲しみと明るさ、絶望と希望を同時に受け取るのです。
2002年に公開された「アレクセイと泉」のフィルムを持って、自主上映会で訪れたのが祝島でした。そうして製作した「祝の島」を初上映したのは、2010年4月26日のことです。
私にとって、映像という広く深い世界のはじまりが、この「アレクセイと泉」という作品であったことは、自分にとっての最大の幸運だったと思っています。いつも心のどこかで、この作品が表現する世界に、私はつながっているだろうか、と思っています。
アレクセイは、間違いなく大きなスクリーンで観ることをおすすめします!
3月19日(日)12:00から、武蔵野スイングホールでお待ちしています!!
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映画「アレクセイと泉」が問いかけること
〜私たちはどこに向かっているのか〜
3月19日(日)12:00~15:30
武蔵野スイングホール(JR武蔵境駅下車すぐ)
第1部 「アレクセイと泉」(2002年/104分)上映
第2部 「アレクセイと泉」2019年再訪の報告映像 上映
第3部 トーク「アレクセイと私たち(仮題)」
・本橋成一さん(本作監督 / 写真家)
・神谷さだ子さん(本作プロデューサー/ チェルノブイリ連帯基金)
・早川 嗣さん(ポレポレタイムス社)
・岡田 光さん(アースマンシップ Youthチーム)
*トーク登壇者は諸事情により予告なく変更になる場合がございますのであらかじめご了承ください。
【参加費】一般 ¥1,500
こども・学生 ¥500
【定 員】 100名 先着順
*支払い完了をもって受付完了となります。
【申込締切】 3月15日(水)
ただし、満席になり次第締め切りとなります。
詳しくはこちらをご覧ください
主催:認定NPO法人アースマンシップ