映画『ある精肉店のはなし』
いのちを食べて いのちは生きる
『祝の島(ほうりのしま)』につづく纐纈あや監督作第二弾
- 釜山国際映画祭ワイドアンブル部門正式出品作品(2013/10)
- 山形国際ドキュメンタリー映画際日本プログラム部門正式出品作品(2013/10)
- 2013年第87回キネマ旬報文化映画ベスト・テン第2位(2013/12)
- Nippon Connection – Japanese Film Festival(フランクフルト)
ニッポン・ヴィジョンズ観客賞(観客投票第1位)(2014/6) - 第5回辻静雄食文化賞(2014/6)
- 文化庁映画賞文化記録映画大賞(2014/10)
<監督のことば>
「人間、額に汗して働いてなんぼや」とは、よく新司さんが口にする言葉だ。とにかく北出家の人々はよく働く。新司さんが店を引き継いでからは定休日をつくったが、それまでは一年のうちに休めるのは元日のみだったという。それを小学生の頃から続けてきたのだから筋金入りだ。
朝は牛や豚の餌やり、舎内の掃除から始まり、屠場での屠畜作業、店に帰ってきたらすぐに内蔵の処理をし、腸は新鮮なうちに油かすにする。今のようにボイラーや機械式の撹拌機がなかったから、薪を1時間ほどくべ続け、二、三頭分合わせた百キロ近い腸をかき混ぜながら炒る。血は圧搾機で絞って干して血粉にし、畑の肥料として売る。馬肉はやはり一日がかりで薪を焚きながら“サイボシ”と呼ばれる薫製にする。家にはしょっちゅう馬喰さん(売買をする商人)やその他の来客者が訪ねてきて、女性たちは台所仕事でも大忙しだった。
日々、家畜の世話をし、肉を扱う仕事をしていても、それは機械的に同じことを繰り返す作業とはわけが違う。人も、動物も、肉も、その個体はひとつとして同じものはなく、また時間と共に刻々と変化していく。五感を働かせ、経験と知識に裏付けされた知恵によって、自分の肉体をもって目の前のものに有機的に反応していく。それが先祖より営々と続いてきた彼らの仕事だった。
そして、それは「映画を作りたい!」と突然自分たちの中に飛び込んできた私という人間に対しても、なんら変わることがなかった。私が何を求め、何を必要としているのかを感じとって、北出さんご家族は惜しみなく与えてくださった。カメラを向けながら、その様子を見つめ、耳を澄ましてきたつもりだったが、同じように、いやそれ以上に、北出さんたちが私を見つめ、問いかけ、映画を作るという行為すべてを包み込んでくれていたのだと思う。
生まれ出た場所で、自分が自分として生きること。そのことを考え抜き、生き抜いてきた彼らは、しなやかでありながら揺るぎなく、そして果てしなく慈愛に満ちている。
<スタッフ>
監督:纐纈あや プロデューサー:本橋成一
撮影:大久保千津奈 録音:増田岳彦 編集:鵜飼邦彦 サウンドデザイン・整音:江夏正晃(marimo RECORDS) 音楽:佐久間順平 宣伝:西岡里佳 製作デスク:中植きさら
製作統括:大槻貴宏 グラフィックデザイン:大橋祐介
協力:『ある精肉店のはなし』を応援する会
製作:やしほ映画社、ポレポレタイムス社
2013年/日本/108分